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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)15089号 判決

原告 東京都商工信用金庫

理由

一、丸善商事の共同代表取締役が被告と梅田であつたこと、丸善商事の共同代表取締役として梅田が原告との間で原告主張の本件信用金庫取引契約をなした事実は当事者間に争いがない。

《証拠》によれば、昭和四二年一〇月頃、丸善商事の四階の被告の部屋で、梅田は被告に対し、丸善商事が原告との間で原告主張のとおりの本件信用金庫取引契約をすることの同意ならびに右契約に基づき丸善商事が負担する債務につき被告が連帯保証債務の負担を約する行為の代理権を梅田または中村延孝に与えることの承諾を求めたところ、被告はこれに同意および承諾をした事実、そこで、梅田は、中村延孝に指示し、中村延孝は原告所有の用紙に所要の事項を記入し右中村が預つていた梅田や被告の印鑑を丸善商事共同代表取締役および連帯保証人名下に押捺するなどして信用金庫取引約定書(甲第一号証)を作成し、梅田の指示に従いこれを原告に提出して本件信用金庫取引契約の申込をした事実、同年一一月一日頃、原告は右申込を承諾した事実が認められる。右認定に反する被告本人の尋問の結果は前記各証拠および証人山口正夫の証に比べたやすく信用できず、他に右認定に反する証拠はない。

以上の事実によれば、原告と丸善商事間に原告主張のとおりの本件信用金庫取引契約が、また、原告と被告間に原告主張のとおりの連帯保証契約がそれぞれ成立したと言わねばならない。

二、《証拠》を総合すれば、丸善商事は、被告の個人営業を会社組織にしたもので被告の経営するものであつたが、金融面で行き詰つたので、被告の懇請により、梅田が資金援助することになり、昭和四二年七月頃、梅田と被告が当事者間に争いのない事実のとおりその共同代表取締役に就任すると同時に、梅田と被告間で「梅田は丸善商事の社長としてその経理面を担当し、被告はその会長として営業面を担当すること、ただし、梅田は京都に居住するため、その丸善商事における業務の補助者および丸善商事における手形小切手行為の担当者を丸善商事専務取締役中村延孝とすること」などを合意したこと、梅田は、丸善商事が不渡処分を受けるのを回避するため、同年一一月四日、丸善商事共同代表取締役梅田優および同共同代表取締役井上秀一の名義で、原告に対し、本件信用金庫取引契約に基づき本件約束手形などの手形の割引を依頼したところ、原告はこれを承諾し、よつて丸善商事専務取締役中村延孝が原告に右手形を裏書し、一方原告は右割引金を丸善商事の当座預金に振込み、丸善商事は右預金をもつて振込手形を決済し不渡処分を免れたことが認められ、右認定に反する被告本人い尋問の結果は前記各証拠および証人山口正夫の証言に比べたやすく信用できず、他に右認定に反する証拠はない。

以上の認定事実によれば、原告は、あらかじめ丸善商事のため本件約束手形の割引などの経理業務の決定執行の権限を与えなれた代表者との間で、本件信用金庫取引契約に基づき、本件約束手形の割引をしたものであり、右代表者が右の権限を有することは、被告が本件約束手形の割引依頼について具体的に特定して承諾していたか否かにかかわらないものと言わねばならない。

三、前記《証拠》によれば、原告は、本件約束手形を満期日に呈示したが支払を拒絶された事実が認められ、他に反証はない。

四、してみると、丸善商事は手形割引依頼者として、被告はその連帯保証人として、昭和四二年一〇月三一日現在、原告に対し、本件約束手形を金二三〇万円で即時に買戻し、かつ右代金およびこれに対する右同日以降完済まで日歩金六銭の約定遅延損害金を支払うべき義務がある。原告は、その内金三七万五九一九円を昭和四三年一二月五日梅田から支払を受けたことを自認するので、右義務のうちその残代金および右同日の翌日以降完済までの損害金の履行を求める原告の本訴請求はすべて正当として認容すべきである。

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